最近お庭や緑の多い道などで、このような小さくて白いフワフワしたものを見かけたことはありませんか?

畑の土の粒と同じ程度の大きさです。
小さくてよく見えませんね。
拡大してみましょう。

目や足が確認できました。どうやら虫のようです。
白いフワフワはおしりから背中にかけて背負っているようです。
白クジャクみたいに見えてゴージャスです。

こちらは先ほどよりもフワフワが少なくからだがよく見えますね
園主の愛鳥コウちゃんも不思議な虫に興味津々
白いフワフワを背負った虫の正体は……チュウゴクアミガサハゴロモ
この虫は、アミガサハゴロモ類の幼虫です。
アミガサハゴロモの仲間の幼虫はどれも似た姿をしていますが、近年特に市街地でよく目にするようになったものは「チュウゴクアミガサハゴロモRicania shantungensis(Chou&Lu,1977)」という外来のハゴロモです。
ハゴロモとは?
そもそもハゴロモとは何でしょう。
あまり聞き馴染みのない方も多いかもしれません。
ハゴロモはカメムシ目(半翅目)に含まれる昆虫です。
大きさは1㎝未満のものが多く、触ったり驚いたりするとピョンッと消えたかのようにジャンプするのが特徴的です。
カメムシ目の中でも、特にセミに近い仲間です。
もし興味があったら、ハゴロモの顔や体を拡大して見てみてください。セミのような姿形をしています。
セミに近い仲間ですが、他にもアワフキ・ツノゼミ・ヨコバイ・ウンカとも分類上近い仲間です。
よく見るヨコバイ「ツマグロオオヨコバイ」通称バナナ虫
カメムシ目の仲間にはカメムシの他にアブラムシ・カイガラムシといった吸汁性害虫とされるものも含まれています。ハゴロモも吸汁性害虫とされることがあるのでだいたい似たようなものです。
ハゴロモの中で一番知名度が高いのは「アオバハゴロモ」でしょうか
夏になるとよく見かける、薄緑色が美しいハゴロモです。
外来ハゴロモについて
☆チュウゴクアミガサハゴロモ
近年急拡大しているのがチュウゴクアミガサハゴロモです。
2015年に大阪で発生が確認されて以来、現在では関東以西の本州・四国・九州の広い範囲で生息確認されています。
この記事ではチュウゴクアミガサハゴロモのことを「外来ハゴロモ」として扱います。
○幼虫
幼虫は全身が白く、白いフワフワを背負っています。
このフワフワはロウ物質でできています。
ジャンプ力を生かして飛び上がり、このフワフワで風に乗って遠くに行くことができるようです。
孵化して間もないうちの幼虫は集団生活します。
なので枝にびっしりいることがあります。
枝にびっしりの幼虫たち
また幼虫は、アブラムシのようにお尻から甘露を出します。
○成虫
成虫は夏から秋にかけて現れます。
蛾のような見た目をしているので、蛾と間違われることが多くあります。
チュウゴクアミガサハゴロモの成虫
翅(はね)は茶褐色や鉄さび色をしています。赤味があるのが特徴です。
翅の横らへんに少しだけ白が入ります。
○なんでも食べます
植物を食べる虫には「この種類の植物しか食べない!」というタイプと「どれでもなんでも食べるよ!」というタイプがありますが、チュウゴクアミガサハゴロモはなんでも食べるタイプです。
食べるといっても、口はストロー状になっているため、植物の汁を吸います。
報告によると、コブシ・ツバキ・ツツジ・キンモクセイ・サルスベリ等の花木、モモ・みかん・カキ・ブルーベリー等の果樹、クスノキ・ケヤキ・エゴノキ等の身近な樹木、生垣によく使われるアベリア・クチナシ・チャ、さらにはメタセコイヤといった針葉樹まで利用しているようです。
バラも利用します。
虫こぶの合間を縫ってノイバラに集う幼虫たち
細い枝を好むため、古い枝よりも伸びたばかりの先端に近い新しい枝によく集まります。
○似ている種
よく似ている在来種に「アミガサハゴロモ」がいます。
在来種なので、元々日本にいるハゴロモです。
在来のアミガサハゴロモはチュウゴクアミガサハゴロモが広がっている市街地ではなく主に山地に暮らしています。
また成虫の色が少し違って、青みがかっています。
チュウゴクアミガサハゴロモはなんでも食べますが、在来のアミガサハゴロモはカシ類しか食べません。
なので、どんぐりのなる木以外にいたらチュウゴクアミガサハゴロモの可能性大です。
☆オオシラホシハゴロモ
チュウゴクアミガサハゴロモと近い仲間の外来ハゴロモにオオシラホシハゴロモがあります。
台湾原産の大型のハゴロモで大阪・兵庫・奈良・岐阜・愛知・岡山で成虫が確認されています。
幼虫はチュウゴクアミガサハゴロモと同じく白いフワフワを背負っていますが、成虫は在来のアミガサハゴロモやチュウゴクアミガサハゴロモよりも大きく、羽にはおしゃれな柄が入るので成虫の見分けはしやすいです。
2010年代から関西地方や岐阜・愛知で成虫の発見が報告されていますが、正式な報文等による信頼できる報告は見つけられませんでした。
ネット上ではブログやSNSによる幼虫の報告が多くありますが、そのほとんどはチュウゴクアミガサハゴロモの誤同定と思われます。
このことから、関西・東海の一部にはいるようですが数は少ないようです。
また、他にもシタベニハゴロモというアジア原産のハゴロモも関西で広がっているようですが、こちらは幼虫の見た目が上記2種とは全然違うため、今回は取り上げません。
外来ハゴロモによる被害
○排泄物による被害
成虫・幼虫ともに排泄物が植物に付着するとすす病を引き起こします。
特に幼虫は大量に群れていることが多いので、より病気発生の可能性を上げてしまいます。
○産卵痕による被害
外来ハゴロモの産卵痕は変わった見た目をしています。
枝に白いフワフワが擦りつけられているように見えるのです。
外来ハゴロモは産卵する時、チュウレンジのように枝の中に卵を産むため枝に切れ込みができます。さらに、幼虫が背負っているような白いフワフワでその切れ込みを覆い隠します。
なので、もし産卵痕を見つけて白いところを拭っても、中に卵があるのであまり意味ありません。
またハゴロモは細い枝に好んで産卵します。
細い枝の中に産卵されると枯れる場合があります。
以上のことから、産卵痕は見た目が悪くなるばかりでなく、樹勢を弱めてしまう可能性や枝によっては枯れます。
白いフワフワのロウの下には
チュウレンジのような切れ込みがある
○吸汁する
外来ハゴロモはさまざまな植物の汁を吸います。
アブラムシや
カイガラムシと同じようにバラの汁も吸います。
1匹、2匹に吸われる程度ならあまり影響は無いでしょう。しかし、幼虫の群れのように大量に吸われてしまうと樹勢が弱まってしまいます。
さらに他の病虫害が重なってしまったり暑さが厳しかったりすると、耐えられずに枯れてしまうこともあります。
〇成虫は光に集まる
昨年の秋ごろ、日が暮れてからコンビニに行くと、大量のチュウゴクアミガサハゴロモの成虫がガラスにくっついていました。
成虫は正の光走性がとても強く、LEDだろうと明るい方に集まってしまいます。
秋になって夜涼しいからと窓を開けていたりすると、成虫が部屋の中に飛んで入ってきます。
●対処方法
吸汁性害虫なのでオルトラン水和剤やベニカ水溶剤などの浸透移行性剤に効果は期待できますが、
チュウゴクアミガサハゴロモは近年侵入し広がったものなので、メーカーによる農薬などの効果がまだ確認できていません。
もし外来ハゴロモに対して殺虫剤を使用する場合は自己責任でお願いします。
山梨県からは防除対策として産卵痕のある枝は土中深くに埋めるか焼却処分するように紹介しています。
当園からは、産卵痕のある枝の廃棄と捕殺をおすすめします。
枝は焼却が一番確実ではありますが、一般家庭で焚火するのは難しいでしょうから、燃えるゴミに出すのが良いですね。
●まとめ
白いフワフワを背負った虫はハゴロモ類の幼虫でした。
近年、大量発生しているこの虫はおそらく外来のハゴロモです。
外来のハゴロモは一種ではなく、複数が確認されていますが多くがチュウゴクアミガサハゴロモと推測します。
外来ハゴロモと見た目が似ている在来のハゴロモも存在しています。
バラに対しての害は、チュウレンジのような切れ込みの産卵痕、カイガラムシやアブラムシのような吸汁による衰弱や排泄物によるすす病があります。
バラだけでなく、多くの植物を利用します。
白いフワフワの虫が1匹いたところで「外来ハゴロモ!滅すべし」とするのはよろしくないですが、たくさん群れていたりするとカイガラムシやアブラムシと似たような症状が出てしまうため、たくさんいた場合には捕殺するか殺虫剤の使用を検討してみてください。
参考文献
・井口雅裕・児玉洋(2025) 和歌山県におけるチュウゴクアミガサハゴロモの寄主植物, 関西病虫害研究会報67(0),117-120
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kapps/67/0/67_117/_pdf/-char/ja
・外村俊輔・大原賢二(2024) チュウゴクアミガサハゴロモRicania
shantungensis(Chou&Lu,1977)の徳島県からの初記録, 徳島県立博物館研報34:77-80
https://museum.bunmori.tokushima.jp/kiyo/2024/06_Tomura_Ohara2024.pdf
・山梨県(2024) 令和6年病害虫発生予察特殊報第2号
https://www.pref.yamanashi.jp/documents/103/chuugokuamigasahagoromo1218.pdf