冬になると大苗(裸苗)がお店で出回っているのを見かけます。このような大苗を購入する場合の注意点をまとめてみましたので、参考にしていただければ幸いです。
基礎知識として知っていおいてただきたいのは、1年でもっとも寒いと言われている大寒(1月20日ごろ)という考えと、植物の根は人間で例えると心臓ぐらい大事でデリケートなものだということです。
小寒から大寒に向かい寒くなっていく
以前YouTube動画で、培養土で鉢増しをする方法や、
すでにあるお庭の土をベースに腐葉土や牛糞などを混ぜた自分なりの土を作ったもので植えるやり方を紹介しました。このときに使用した苗は秋苗と言い、半年以上鉢の中で肥培管理をして育てたもので、根鉢(根がしっかり回っており、鉢から抜いても土が崩れない状態)が出来ているものでした。なので、鉢から苗を抜いても土が崩れないため、根に対するダメージが無く、様々な作業をしても問題ありませんでした。
根が回り鉢の形に固まっている状態=根鉢
しかし今回お話しする苗=冬の大苗は、秋~冬の時期に畑から掘り上げたばかりのもので、まだ根鉢が出来ていません。このような苗が冬に色々な状態で販売されており、その形態によって管理方法が違いますので幾つかご紹介します。
様々な状態で販売されている
左:定植苗 中央:仮植苗 右:根巻苗
<例えば>
①定植されている苗(しっかりとした大き目の鉢で培養土で植えてあるもの)
多くが秋~冬に苗を生産畑から掘り上げて鉢に定植した物だと思います。鉢のままであれば、水やりや肥料などの一般的な管理をし、芽が出てきたら薬剤散布をして春の開花を迎えられます。
ただしこの苗を地植えする場合は、鉢から苗を抜く必要があります。畑から掘り上げてから間もなくですので、根鉢が出来あがっておらず、鉢から抜くと土が崩れてしまいます。バラにとって根は心臓。土で守られていた白根が裸になり、いくら休眠期であるといっても、ある程度はダメージを与えてしまいます。
根鉢が出来ていないので土が落ちる
②小さめの鉢やビニールポットなどに簡易的に仮植されている苗(根が乾かないようにミズゴケなどで仮植してあるもの)
鉢が小さくこのままでは育てられないので、購入後一度根を裸にして定植鉢に培養土で植え替えをする必要があります。
③バラの根をビニールで巻いてある根巻苗(根が乾かないようにピートモスなどが入っているもの)
購入後ビニールから取り外し、一度根を裸にして定植鉢に培養土で植え替えをする必要があります。
どの形状で販売されていようと、生命にとって厳しい冬に根がむき出しの状態の裸苗を地植えするのは、バラにとってダメージが大きすぎます。とくに怖いのは地面が凍り根が窒息すること。寒冷地の方からは、冬の苗を他社で購入し地植えしたけれど、どんどん枝枯れしていきやがてすべて枯れてしまった、花は一輪も見れなかった、というようなお声をときどき聞きます。
冬に地植えするよりは、春に暖かくなり根鉢が出来上がってから地植えした方がより安全かと思います。
温度管理を
根がまだ育っていない苗を購入する場合は、寒さで凍り、最悪枯れてしまうことを防ぐために温度管理が必要です。
温度が下がってくる夜にビニールでバラを覆い冷えるのを防ぎ、日中は温度が上がるため蒸れてしまうことがあるのでビニールを取り外します。毎日の作業としては大変です。
より注意が必要な株
また、苗の状態によっても管理方法が違います。例えば、まだ芽が出ていない苗は外の自然の環境で育てたものなので、大寒などの寒さに向かう時期も屋外で管理して問題はありません。
しかし、1月、2月の最も寒い時期にも関わらず、芽が出ている苗を購入した場合はより注意が必要です。芽が出ているということは、すでに根は動き出しており根が水分を吸い上げ芽に送っています。おそらく温室や店内など温かい環境で育てられていたもので、もしそのあたたかい環境からご自宅のお庭(屋外)で管理し凍るような寒い日があった場合は、芽が溶け出し、最悪の場合は枯れてしまうこともあります。あたたかいところから急に寒いところに行くと人も体調を崩すように、バラにとっても大きなショックです。そのような株の場合は、できれば購入前の温度環境に出来る限り近い状態で育ててあげるのが失敗が少ないです。
真冬なのにすでに芽が動いている株
手間暇かけない方法としたら、日の当たる家の中で管理出来る場所があれば一番良いと思います。東京近郊では最近は暖かいのですが、自然が相手なので予測は難しく、温暖差が激しい場合もありますので、やはり注意が必要です。
バラにとって冬という季節
四季の中のローテーションとして、バラは落葉樹ですから冬には葉が落ち休眠します。落葉の植物は休眠期が大事です。厳しい冬に体力を温存し養分を蓄えることで自分の身を守っています。それと当時に、寒さにあたることで植物自身が次は春が来ると感じ、次の季節の準備をします。これは自然の流れであって、植物にとってはとても良いことです。
当園では休眠期に畑から苗を掘り上げ、定植鉢に培養土で定植し、春まで温度、湿度、病害虫に注意しながら管理をして育てます。
その日の気温、湿度により、ビニールトンネルを開けたり閉じて
バラにとって快適な状況を細かく調整します
そして、厳しい冬を終え、4月に入り気候があたたかく安定したころに皆様にお届けしています。
初めてバラを始められる方や、寒冷地にお住いの方は、春に出回る苗を購入された方が失敗が少なく管理がしやすいと思います。
冬の大苗のメリット
冬に出回る苗についていろいろと注意喚起をしましたが、もちろん良い点もあります。
まずは春苗に比べて安価であることが多いこと。上級者さんや、比較的あたたかい地域の方にとっては良いかと思います。
二つ目は春の芽吹きを見られること。3月ごろに少しずつ暖かくなってくると、色々な色の芽吹きを見ることができます。その姿は生命の息遣いを見ているようでとても可愛らしく感動します。(とはいえ新芽はとてもデリケートなので気は抜けません。このタイミングで遅霜などにやられ失敗することもあり、やはり温度管理には気を使います。)
三つ目は、冬の間は人気の品種や流行の品種を比較的入手しやすいこと。バラの本格的なシーズンは4月~5月ごろです。あたたかくなると園芸店も賑わいはじめ、人気の品種からどんどん無くなってしまいます。
冬の大苗(裸苗)の取扱いについて注意点をお話ししましたが、もしこの時期に冬苗を購入する場合は、これらの注意点を理解したうえで購入されることをお勧め致します。
▼前編
▼後編