ダマスククローズは強く高貴な香りを持つバラです。
その花弁から取れる香料は貴重品とされ、古くから中近東を中心に栽培されてきました。
香りはバラの大きな魅力のひとつです。
これはそんなダマスクローズを知りたい育てたい方のためのしおりです。
(1)ダマスクローズとは…バラの系統(遺伝的な特性で分類されたグループ)のひとつ
そこに分類されるバラを大きなくくりでダマスクローズと呼びます。
バラの発祥はアジアです。
ダマスクローズはロサガリカ(西アジア、ヨーロッパ南部とロサモスカータ(ヒマラヤから北アフリカまで分布する)の自然交配によって生まれたと考えられています。
最近の研究ではそれにロサフェドチェンコアーナ(中央アジアから中国の北西部が原産地の白の一重)の遺伝子がかかわっていることがわかっています。
これを元にアルバ、ケンティフォーリアなどの系統が生まれました。
バラの系統について詳しくはこちらをご覧ください *記事準備中*
(2)最も代表的な「ダマスクローズ」、カザンリクとキャトルセゾン
単にダマスクローズ(ロサ ダマスケナ)と紹介されている場合もありますが、おそらく一季咲きのダマスクローズの古くからある品種の近似種です。
学名で書くとRosa x damascena となりますが、xは雑種であることを示します。
ダマスクローズには春から初夏にかけて咲く品種と、秋に返り咲きをする品種があることが知られていました。
それぞれサマーダマスクとオータムダマスクと呼ばれていますが、これからご紹介するカザンリクとキャトルセゾンがそれに当たります。
両方とも最も古くからあるダマスクローズです。
「カザンリク」
ロサ ダマスケナ トリギンティペタラ Rosa damascena trigintipetala:1700以前

「トリギンティペタラ」とは「30枚の花弁」という意味です。
たくさん花弁があることを示していますが、香りには花弁を用いるので数は重要ですね。
カザンリクはブルガリアでバラの香油の原料として栽培されています。
バラの谷と呼ばれる栽培地のある平原の名前でもあり、同名の都市もあります。
街にはバラ博物館があり、バラ油を作ってきた歴史や精油の工程をみることができます。
毎年6月第一日曜日に行われるバラ祭りが有名で、世界から観光客が集まります。
現地では「カザンリク」は香油を取るバラの総称ということですが、日本ではトリギンティペタラが同名で流通しています。
「キャトル セゾン」
ロサ ダマスケナ ビフェラ Rosa damascena bifera:1633以前

別名:オータムダマスク。
返り咲きをするバラはかつてヨーロッパでは大変珍しく、サマーダマスクが香料のために栽培されたのに対して、こちらは鑑賞用に広まりました。
また19世紀に入ってからのヨーロッパでのバラの発展に大いに寄与しました。
姿はカザンリクとほとんど変わりません。
(3)その他の代表的なダマスクローズの紹介
古代から愛されてきたバラですが、1800年代に四季咲き性をもつ中国の園芸品種のバラがやって来たことによって、育種のブームが起き上がりました。
また、新種を探し求めるプラントハンターも各地に赴き、ヨーロッパでまだ知られていなかった品種が発見され新しい名がつくこともありました。
交配親不詳のものが多く、年代は発表された年や記録に残っている最も古い年を表しています。
・ヨーク アンド ランカスター:1576以前

一つの花に白とピンクが入り混じって咲きます。
・セルシアナ:1732以前

ソフトピンクのエレガントに波打つ八重咲。ルドゥーデの絵画にも描かれています。
・ローズ ディベール:不明

ごく淡いピンクの八重咲き トゲが少ない
・マリー ルイーズ:1811

ピンク 整いすぎない優雅なボタンアイ
・レダ:1826

整ったロゼット咲きの縁にくっきりとした紅色の覆輪
・イスパハン:1827、1832以前

奔放な咲き方のボタンアイ 花付きがよく耐病性に優れている
・へーベス リップ:1829、1912

白い清楚な八重咲きの花弁の縁にランダムにピンクが差す
・マダム ゾイットマン:1830

白〜ごく淡いピンク 整った小ぶりなボタンアイ
・マダム アルディ:1832

純白のロゼット咲き グリーンアイが特徴 白のダマスクの代表的品種
・ラ ヴィル ドゥ ブリュッセル:1849以前

大変整ったロゼット咲き
・ローズ ドゥ メイ:1861以前

南仏グラースで香料と取るために栽培されている。
・オマール ハイヤーム:1893以前

ロゼット咲きにボタンアイ 咲く途中に乱れた開き方をするのが特徴的 イランで採取
・ローズ ドゥ レッシュ(ポートランドに分類されることも):1900以前

他のダマスクより濃いピンク
・グロワール ドゥ ギラン:1940年以前

ピンク カップ咲き イランで発見
(4)ダマスクローズ系統以外のダマスクローズの香りを持つバラ。
ダマスクローズの香りは交配によって、モダンローズに受け継がれています。
モダンローズはダマスク香の他にもティーやフルーツ、スパイスの香りなど様々な香りをもっており、研究者によっていくつかのタイプに分けられています。
その中からダマスククラシックとダマスクモダンの香りをもつバラをご紹介します。(別冊NHK趣味の園芸バラ大図鑑より)
ダマスククラシック(華やかで強い甘さをもつ香り)
芳純 香具山 グラナダ セシルブリュネ ティファニー スヴニール ドゥ ラ マルメゾン
ダマスクモダン(情熱的で濃厚な甘さをもつ香り)
パパメイアン イブピアッチェ クリムゾングローリー ネージュパルファム マーガレットメリル シャルルマルラン レディラック